2004年5月8日 (土)
アンドレアス・シュミット フルートレッスン

ドイツの名門、少数精鋭でなるシュトゥットガルト室内管弦楽団のソロフルーティスト、アンドレアス・シュミットが来日した。ここ湘南国際村開村10周年記念リサイタルに観光を兼ねミュンヘンから来てくれた彼は近くの総研大(総合研究大学院大学)で小平学長夫人のウタさんのトーク入りで演奏、また鎌倉にある名刹、覚園寺でも演奏、どちらでも観客の大喝采を浴びた。その同じプログラムをSalon Collinaでも演奏してくれた。

2004年5月8日(土)午後2時~    Salon Collina
5月5日は小雨模様の生憎の天気だったが、8日は上天気、気分新たに40名の観客がアンドレアスと北原美枝子さんのピアノを楽しんだ。

プログラム

モーツァルト:  ソナタKV376
シューベルト:  しぼめる花の主題による変奏曲
リスト: コンソレーションよりⅢ (ピアノソロ)
プーランク:  フルートとピアノのためのソナタ
ラフマニノフ:  ポッカリーゼ
ポップ:  リゴレット ファンタジー Op.335
アンコール曲
ダマリ: 白いつぐみ
ゴセック:  タンボリン

彼のフルートレッスン(後述)を予め聴いていたので一段とそのよさをこのサロンで味わうことができた。人の声に一番近いと言われるフルートの音はこの小振りのサロンに快く響いた。アンドレアスの抱くそれぞれの曲に対する情感、音楽性がよく伝わってきた。曲の一節一節が血となり肉となって身体中に滲みていて、余裕綽々と丁寧に吹いていく。口をわずかに開けてピアノとともにひょいと吹き始めるときの表情、身を乗り出したり退いたり、ひざを屈めたり伸ばしたり、まるで人に語りかけるような優しい演奏、吹き終わったときの夢見るような空ろな間の表情、どの動き一つも彼の音楽性を語らぬものはない。いずれの曲もよかったが、本日の私の好みは2番目のシューベルトと最後のポップだった。ロマン派を代表するシューベルトの有名な「美しき水車小屋の娘」よりとった最後第18番の曲である。少し暗く悲しみに沈んだ出だしだが、それがまたいい非常にロマンティックな曲だった。若い粉屋がきれいな娘に恋をした。叶わぬ恋に’萎める花’のように死を覚悟した粉屋、自分が死んで、その墓前を娘が通り過ぎようとしたとき、萎んだ花を生き返えらせて、自分の胸の内を娘に語るという物語だ。ポップはあまり知られていないそうだが、今日のリゴレットファンタジーは甘みで軽快、早いテンポの曲だった。アンコールで吹いたダマリの「白いつぐみ」はまさに小鳥が囀るようなピッコロによるダマリどころか賑やかな曲だった。「つぐみ」は英語で言えばブラックバード、まさに黒い鳥だが、それが白いのだから、めったにいない人(物)を指すそうだ。

アンドレアス・シュミットのレッスン傍聴

演奏者のためのレッスンを聞き手が聴くのもおもしろいしためになる。以下はそのレッスン風景の一端である。きれいな音の反対は汚い音だ。音が重かったり、ズゥーズゥーと雑音が入ると汚い。高い音でキンキンときしむのも汚いし、角があってゴツゴツしたり、急発進するような音も汚い。音が寝たようなのは汚いし、だれたような、ゆるんだような吹き方も汚い。裏返せば、きれいな音とはその反対の柔らかく、優しい、丸みを帯びた音である。また、徐々に大きくなり、徐々に小さくなる音であり、徐々に早くなり、徐々に遅くなる音である。音のグラデュエーションと言えるだろう。観客の耳はそう器用にできてはいない。急に早くなったり、急に遅くなっては、何が起こったのかわけが分からなくなる。自然と滑らかに聴こえるためには優しさ、柔らかさが要る。早くすべきところが早くなかったり、遅くすべきところが遅くなかったりすると、だれてしまって聞き手のテンションとならない。そこを注意して、聞き手に適度なテンションを持たせ、適度な刺激を与え続けねばならないと教えている。息は首の横の方からするのでなく、お腹の奥から首の真中を通って発するようにと指導している。唇に柔軟性を持たせ、少し開けるぐらいがよいと言っている。曲全体を常に抒情的に旋律的にイメージしながら吹くと身体全体も自然と反応するようだ。彼は9歳から19歳まで合唱団で歌を唄い、11歳からフルートを始めただけあって、声がきれいし、声楽的にフルートを指導している。受講者にアイエオウと母音を連続的に発声するよう指導していたが、それを見て思わず思い出したことがあった。英語などは母音を口前方から口後方へと連続的に段階的に発音できるが、日本語はアイウエオとお互いに交わり難いように非連続的にできていると聞いたことがある。音のグラデュエーションのためには英語やドイツ語の方がいいのかも知れない。このようなことを考えながら傍聴していた。

 

 ( 土 ) アンドレアス・シュミット フルートレッスン