2002年6月9日 (日)
クラッグ・シェパードピアノ・リサイタル

横浜でサッカーのワールド・カップ、日本対ロシア戦が行なわれているさなか、初来日のアメリカ人、名ピアニスト、クラッグ・シェパードがピアノを弾いていた。かくも立派なリサイタルがワールド・カップに観客を奪われたのは残念だった。
2002年6月9日(日) 午後7時~  横浜市栄区 地球市民かなざわ 区民文化センター「リリス」

初来日したクラッグ・シェパードのピアノに私の心はすっかり奪われた。 ひょっとしたら, 私には過去聞いたピアノの中で最高だったかも知れない。だれしも自分の好みがあり、一般化はできないが、少なくともこの私の心には極めて素直にすんなりと収まるピアノだった。波長が合うと いうか、ピントが合うというか、ピターっと過不足なく私の心に収まるのだった。それは、一口に言って、まろやかさの中のメリハリだった。ゴツゴツしたメリハリとは違った。私はクラッグのピアノにピアノ芸術の粋ないし真髄を発見する思いだった。彼は数あるコンクールの中でも有名なあのリーズで第2位、銀賞を受賞した腕前だ。ワールドカップの選手に負けない聴き応えのある名ピアニストだ。静謐なキャンバスに描く弱音、強音の図柄はモネーの絵のような感じがした。多くの場合、強音に惹かれる私だが、今日は逆に弱音の魅力に惹かれた。弱い音が奏でる微妙な陰影、甘味、それが魅力だった。テクニックのようなものはとっくに超越し、その奥にある価値、精神性、音による精神の透徹性が感じられた。五十半ばという熟年のなせる技か、それとも20年に亘るロンドン生活からくるヨーロッパ傾向か、きっとその両者のゆえだろう。一皮剥けた音には、瑞しさが宿り凝縮した音の結晶が燦然と輝いていた。柔らかさの中に洗練された響きがあり、引き締まった整然とした美があった。彫りの深い顔したクラッグがステージを去るさいの肩を少しまるめた姿勢が印象的で、ギリシャの哲学者、ソクラテスを見る思いだった。

参加者の声: 素晴らしいリサイタルで 感動いたしました。力強くて 繊細で!
お一人で演奏していらっしゃるのにまるでオーケストラのようでした。

I indulged myself completely in the piano playing by Craig Sheppard, 2nd prize winner of Leed’s International piano competition, whose first visit to Japan seemed rather overdue. He is the most impressive pianist that I have ever heard. His performance  knocked me out so thoroughly that I couldn’t stand up when it had ended.  He drew such a beautiful painting as Monet with his acoustic writing- brushes against  a canvas of silence. Dynamic, powerful and strongly-touched sounds were well made  accentuated and contrasted on his palette with delicate, pianissimo, and  sensitively-touched sounds. He played alone but sounded as if he were playing with  an orchestra. The acoustic oil painting was a masterpiece drawn by an impressionist, who inspired me most with the variety of color hidden in his broad palette of sound.

プログラム
J.S.バッハ:  パルティータ  No.4 ニ長調
L.V.ベートーヴェン:  ソナタ ヘ短調 作品57 ”熱情”
C.A.ドビュッシー:  「版画」より  塔  グラナダの夕べ  雨の庭
F.ショパン: ソナタ ロ短調 作品58

プロフィール
アメリカ・フィラデルフィア生まれ。 カーティス音楽院並びにニューヨークジュリアード音楽院卒。英国リーズ国際ピアノコンクール2位、銀賞受賞。ロンドン在住20年、ランカスター大学、ギルドホール音楽学校などで教鞭を執る。声楽家ビクトリア・デ・ロスアンレス、ホセ・カレーラスやヴァイオリニスト   五島みどりなどと共演。国内外の数多くのピアノ・コンクールの審査員を務める。博識家で特に外国語に関心深く、英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語、デンマーク語、ロシア語を話す。今回、初来日にもかかわらず日本語を相当操っている。(自動車から見える、カタカナ、ひらがな、漢字を   読み取ろうとし、その意味を探っていた。)

 ( 日 ) クラッグ・シェパードピアノ・リサイタル