2006年4月18日 (火)
ニカ・シロコラッド(Nika Shirocorad) ピアノリサイタル   

2006年4月18日(火) 午後2時~   Salon Collina

今年は4月に入っても寒い日が多かったが、今日はもう春爛漫、Salon Collinaの庭にも色とりどりの花が咲き競うようになった。そのよく晴れた今日、ロシア出身のニカ・シロコラッダが初来日した。スラブ系の若い女性で画家兼ピアニストである彼女は根っからの芸術家と見え、自ら描いた油絵とバティークを回りに廻らし、その中で極めてパワフルで、エネルギッシュなピアノ演奏をした。

東ヨーロッパが秘匿した最大級の才能といわれるだけあって、その登場はいささか神秘性を帯びていた。この目を瞑り経でも唱える面持ちで弾くピアノは独特の音楽性と個性を備え、弾くすべての曲が自家薬籠中のものとして自由に扱われていた。絵とピアノを同じ比重で扱う彼女にとって、絵と音楽は相互に触発し合い、融け合っている。空間的色彩が時間的色彩に化け、時間的色彩が空間的色彩にも化ける。この20日には日経ホールで同プログラムで演奏されるが、一昨晩もNHKで彼女の演奏が放送され、多くの聴衆を魅了した。ニカはNikaでNikeと同じ語源、ミサイルのNikeもナイキーシューズのNikeも同じ、ギリシャ神話の「翼をつけた勝利の女神の意。彼女のピアノはまるでその翼でキーを鳴らすようだった。

プログラム
ショスタコーヴィッチのプレリュードとフーガ 第14番 作品87
暗闇から明るさが飛び出してくるような深遠な思想性を感じさせてくれた。
ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第23番「熱情」作品57
よく知られた曲だが、切れの良い奥行きのある多色刷りの音にあらためて圧倒された。
ショパンの幻想曲 作品49
コープランドのピアノ変奏曲   1970年代に作曲された現代曲。不思議な音がなり響く。
弾ける音の中でニューヨークが表現され、現代文明のおどけたピエロのような奇声が
するかと思うと、精神分裂気味のほこりが舞う。
リストの歌劇「リゴレット」による演奏会用パラフレーズ
ラヴェルの悲しい鳥たち~「鏡」より
フィニッシーの「イングリッシュ・カントリー・チューンズ」より
不意打ち、爆雷、戦争、地震、崩壊、轟音、大砲、打楽器、脱線する列車、秩序ある無茶苦茶。聞きながら頭を過ぎったこれらの言葉の中に厳然と現れた彼女の音楽性……この非凡な曲と技。世界最難曲といわれる曲を見事にやってのけたのはさすがはニカだった。

彼女のバティークを見てもそうだが、基本的にデザイナーである彼女は、一つの柄の中に多くの要素を織り込む。エジプト文明、ギリシャ文明、ローマ文明を一つの宇宙の中に織り込んで統一する、そのような想像性と創造性に富んだ彼女は音楽においても多くの要素を入れてデザインするのだろう。夜、彼女と雑談しているとき、彼女が次のように言ったのが忘れられない。予め約束していた演奏曲が途中で変更されたときほどつらいことはない。それはテクニカルというより、インテレクチュアルに困ると。長時間をかけてデザインした曲がご破算となり、短時間で別曲のデザインをしなければならないからと。これは曲の解釈のことであり、解釈はその演奏者の音楽性、個性に通じるのだろう。それが出来てしまえばその実現のためのテクニックはついてくるような口ぶりだった。

 ( 火 ) ニカ・シロコラッド(Nika Shirocorad) ピアノリサイタル