2009年2月1日 (日)
井上昭史(フルート)&井上真美(ピアノ)リサイタル

2009年2月1日(日)午後2時~       Salon Collina

朝から晩まで一点の雲もない富士山が望める日も珍しい。そんな麗しい冬の 一日、三十数名の聴衆が聴く中、井上昭史氏と真美さんのフルート・リサイタルが   始まった。

静かな、静かな宵です。雲間を蒼い月がゆっくりゆっくりと左から右へと進んで行きます。ドビュッシーの「月の光」を聴いて甘いセンチメンタルな 気分に浸っていると、今度はショパンのノクターンに変り、黒い夜空を覆いました。気分はメランコリックな情感に変りました。ヒョロヒョロ、ヒョロヒョロ と淋しく吹く「遺作」に明日の運命も分からぬ戦場のピアニストになりました。フルートの音色って一体何だろうと、今度は「おぼろ月夜」を奏でるフルートを聴きながら思案していますと、突如、ガンガンピカピカとピアノが光りました。その瞬間、私の瞼にマンハッタンの灯が過ぎりました。あのおぼろ月夜の 下で負けず劣らず輝いたビルの灯の群れです。こんな光景を何度見たことでしょう。
月は太陽ではありません。光りながらも蒼白い。物憂く、物悲しく、うら寂しい。 それがフルートの音色かも知れません。音の回りが滲んでいて、おぼろで、陰影に満ちています。優しく、柔らかく、ふくよかさもあります。一番そこが人間的と思えるのです。何せ、人の息遣いが聞こえてくる口笛の延長ですから。 ピアニスト、真美さんのドレスを見て、あぁ、これはクリムトの「抱擁」ではないか、この感じだ、月の表情は、フルートは、と。

そういえばフルートのテーマは「失恋」が多いそうです。寂しさ、悲しさ、神への祈り、天上への階段、これらを表わすのにふさわしい音色なのかも知れません。金色(こんじき)の交じった紫色とでもいいますか。やはり私がいつも書く「笙の笛」が当りなのでしょう。
今日のプログラムのうち、オネゲルの「めやぎの踊り」はユーモラスで、おもしろく現代風の曲でした。フルーティストが床に寝っころがり、めやぎよろしく「ピーポープゥーププププゥー」と鳴らす。シリアス過ぎる日本人にはどう受け止められるか知りませんが、こういう曲を織り交ぜるセンスを高く評価したいですね。

本日のプログラム
ドビュッシー: 月の光
ショパン:   ノクターン(Op.15-2、Op.72-1、遺作)
バッハ:    ソナタ(E-dur)
岡野禎一:   おぼろ月夜
オネゲル:   めやぎの踊り
ゴーベール:  二つのスケッチ(平原の夕暮れ、オリエンタル)
カプレ:    夢と小さなワルツ
シューマン:  三つのロマンス アンコール曲
アンデルセン: スケルツィーノ
クライスラー: ベートーヴェンの主題によるロンディーノ
イベール:   間奏曲
コーベール:  子守歌

井上氏は慶応大卒業後、アメリカ、スイス、イタリア、イギリスに留学、著名なフルーティストに師事した立派なアーティストで、トレヴァー・ワイフルート教本シリーズを翻訳刊行した人と知られています。そのため、今日は玄人肌の人が多く、自らフルートを演奏する人、自らの金、銀名器 を持参する人もいました。悲しい哉、口笛さえも吹けない小生は耳学問を増やすばかりでした。