2003年12月24日 (水)
松本和将、アンドレアス・ケルン デュオコンサート

2003年12月24日(水) 開演:午後2時   Salon Collina

クリスマスを控えた週中であったからこのコンサートを見逃した人も多かろうが、もうこんなコンサートはそうそう聴けないのではなかろうか。今年最後を飾るにふさわしい コンサートだった。
プログラム       ~~~ドイツ音楽、日本音楽~~~

第1部 ドイツ音楽(ソロ)                                                                                               バッハ=ブゾーニ: 来たれ、異教徒の使い    松本和将              シューマン:    ダビッド同盟舞曲第1巻   A.ケルン             リーム: ピアノ小品第7番           松本和将              第2部 日本音楽(ソロ)                            武満徹: 雨の木素描              A.ケルン             吉松隆: 「プレイアデス舞曲集」より                                                                                                                                                                                                                                   さりげない前奏曲                                                                                                   西に向かう舞曲                                                                                                     聖歌の聞こえる間奏曲                                                                                                                              プラタナス・ダンス                                                                                                    夕暮れのアラベスク                                                                                                        真夜中のノエル                 松本和将                                                                                武満徹: 閉じた眼Ⅱ              A.ケルン                                                                                      第3部 ドイツ音楽(連弾)                                                                                                    ベートーヴェン: 交響曲第5番ハ短調「運命」   松本和将&A.ケルン                                                                            アンコール曲:                                                                                                     チャイコフスキー:「くるみ割り人形」よりワルツ  松本和将&A.ケルン

こんな劇的なコンサートがかつてあっただろうか。まず松本和将が、 ドイツ音楽と名打ってバッハ=ブゾーニの「来たれ、異教徒の使い」を弾く。 なんということだ。弾く前からその音楽が鳴り、その真っ只中で彼はただ音楽に合わせて手をピアノに添えているだけのように錯覚した。 それぐらい音楽に陶酔し切った表情で弾いている。そんな彼に不思議を覚えているとき、彼は突如反対の仕業に出た。今しがたまで音楽の中にいたはずの彼が音楽から飛び出したのだ。リームのピアノ小品第7番を弾いて外に飛び出したのだ。松本の相手を務めるアンドレアス・ケルンが松本の演奏に先立って解説する。現代音楽には破壊的、危機的なところがなければならない。グチャグチャのところがなければならないと。音楽の否定から、あるいは否定の音楽から生まれた新たな音楽 ではないか。まさに音楽との音楽による戦闘が始まった。重装備の振動がする。あのドイツ語のデル、デス、デム、デンを思い出す。ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダンと力任せにピアノを打ちたたき終るところを知らない。 わが1923年製スタインウエイ名器もこれほどまでに強く可愛がられたことは 誕生以来なかったろう。内臓の全てが飛び出したようなグロテスクな快感。松本は口を開け身体をゆすりこれ以上手の動がしようがないよと言わんばかりに 弾いた。その様は、まるでサルが、小熊がピアノを弾いている滑稽な姿でもあった。

役者変ってアンドレアス・ケルン。武満徹や吉松隆の現代音楽を志向する彼だけあって、その、日本音楽と名打って弾くピアノに痺れた。今度は彼が日本の無の世界に埋没したのだ。大太鼓を叩いたような地響きから一転、突如として除夜の鐘を聴くような静けさが支配した。間、静、寂、能、わびさびの世界が訪れた。何もかも内におし隠したように凝縮した濃縮な無、内面的、内省的な世界が彼の音楽を通じて現れた。

どこまでもどぎついはらわたを表に現わしたようなインサイドアウトの世界を松本が弾けば、ケルンがその対極にあるアウトサイドインの世界を精神浄化して微美に伝える。その余韻が今もって消えない。個々の曲の印象を述べるひまはないが、二人の選曲とその組合せの妙に二人に天才を見た。 アンドレアス・ケルンは我が家に今日から数日泊まることになった。そのもの静かで穏やかな性格、背の高さ、顔の表情、その全てがシンシナチ大学の プロフェッサーでピアニストのビル・ブラックに酷似しているのに驚いた。そのビルが10日ほど前、シンシナチで病死した。おかしなことに、そのビルと松本は知己だった。今日のコンサートは松本のビルに対する鎮魂歌であり、ビルに代ってアンドレアスが返歌するようなおかしな気分を味わった。アンドレアスがビルを知るはずもなかろうが。

 ( 水 ) 松本和将、アンドレアス・ケルン デュオコンサート