2019年6月2日 (日)
梯 剛之ピアノリサイタル

首も動かさず口も固く結んだまま無表情に弾くその静謐さがかえって音楽に大きな表情を与えた。音と音の間に音の雫のような音が一杯詰まり、さすが日本の小学校を卒業するなりウィーン国立音楽大学準備科に入学し耳を鍛えただけあって音の感度は一般の日本人とは大分違うように見受けた。今日2時からSalon Classicで、語りを入れながら、弾いた盲目のピアニスト、梯 剛之のピアノ演奏にぞっこん心酔、陶酔した。

最初のモーツァルトの「幻想曲ニ短調」、出だしを聴くなり黒真珠のネックレスを思い浮かべた。なんと美しい個々の音の光沢。ドビュッシーの「月の光」を聴いては壁に掛けた拙画、「ドビュッシーに寄せて」の月の雲間を照らし波間を照らす夜のしじまと重ね合わせた。

梯の語りによると、ショパンは幼少の頃、両親が音楽を聞かせると妙な奇声を発したとか、その頃からショパンには人声も犬猫声も強く音楽と結びついたものらしい。「子猫のワルツ」がその一例だが、命名したのは出版社だ。シューマンの「トロイメライ」や「クライスレリアーナ」を聴き、その一方でショパンの「舟歌」や「バラード」を聴いて私は自分の好みはどちらだろうかと自問自答してみた。どちらも甘さでは共通しているが、シューマンにはその中に酸っぱさが、悲しさがショパンには尊さが、高貴さが感じられショパンに傾いた。

盲目の梯にはホールの雰囲気が手に取るように分かるのだろう。拍手はもちろん、どよめき、息遣いも直に感じられたのだろう、アンコールにシューベルトの「楽興の時」「即興曲」、ショパンの「ノクターン」二つ、計4曲もが奏でられた。