2018年9月17日 (月)
第2回ノアン・ピアノ・アカデミー開催報告

古城

この谷合には一つの古城がある。城主がイヴアンリの友達であってみればそのよしみで入城料を無料にしてくれた。城内にはこの周りの風景を印象派の画家たちが描いた絵が多く展示されていた。私の目にはさして変わったとも思えないこの場所が印象派の画家たちの手にかかると、こんなにも色鮮やかな絵に化けるのかと驚いた。裏口から裏側に出ると緑の絨毯を敷き詰めたような広い庭園があり、そこでみなで一休みした。私はスケッチブックを取り出し、一、二素描をした。

 

忘れられた地
 ラシャトルやノアンは、「地球の歩き方」にも出ていない辺鄙な土地で観光客らしい人は見かけない。それだけに現代のカマーシャリズムに毒されない、昔ながらの鄙びを蔵している。そんなところに1926年(昭和二年)、何とあの白洲次郎が愛車、ブガッティを時速100マイルでぶっ飛ばして一時間足らずでパリからやってきたと、芦屋出身の同氏のことについて芦屋の郷土研究誌が写真とともに報じている。

 

アンリ教授宅の改造納屋でコンサート
 夕方、ホテルから5分と離れていないアンリ教授の家を訪れた。広い庭を左に曲がると農機具などが仕舞われていたと思われる大きな納屋が改造されて風情のあるコンサートホールに化けていた。屋根は急斜し天井の高いところは7メートルほどもある。壁は納屋時代そのままで麦藁がところどころに突き出ている。大きな正面の壁にはフランツ・リストとその愛人、マリー・ダグ夫人の大写真、左の壁にはサンドの子ども、息子のモーリスと娘のソランカの写真、その他見覚えのある人物の写真が飾られていた。

 

ショパンとドラクロワ、アンリ教授と私

アンリの弾くピアノは絵画の色調に似て音が消え入るような微妙な無からひときわ強いアクセントまで彩るグラデーションの美しいハーモニーを作る。イヴ・アンリと私は生意気に、また大袈裟にいうならショパンとドラクロワの関係かも知れない。美という芸術の共通項で結びついている。

中世をスケッチ
 ホテルに現れたイヴアンリが私にスケッチするのに格好の場所があると教えてくれた。ホテルから徒歩で15分ほど離れたアンドル川に架かる12世紀の石橋だ。早速出かけて行った。細い路地をくねるように歩いて行くと、なるほどあった。ヨーロッパの12世紀に戻った気分になった。だれもいないところでスケッチブックを広げて橋を描いた。小川に毛の生えたような小さな川に架かる8百年前の石橋。これまたアルカイックな色艶をしている。下には淀んだ水、向こうに見える茶褐色の家々、それを覆ったような大きな緑の樹木、まさしく絵になる。

パリ到着、ホテル・ノルマンディーへ
 ラザール駅近くのホテル、「ノルマンディー」に着く。男のような、いかつい感じの中年女性ドライバーが「パリ、美しい街」と一人英語で呟きながら、セーヌ川南岸を走り、ルーブルの辺で北上、縞馬でも見ているような感じの、縦縞の多い石作りのビルの中を走った。このホテルの前にあるラザール駅からノルマンディー作戦のために連合軍は出掛けていったのだった。ホテルの名前はそれに由来したものだった。