2018年9月17日 (月)
2018年9月15日(土)イヴ・アンリ教授レクチャーリサイタル

イヴ・アンリ略歴         

ピアニスト兼作曲家のイヴ・アンリは1970、80年代、パリ音楽院に学ぶ(現在同院教授)。ピエール・サンカンに師事、室内楽、伴奏、コーラス指揮コース専攻、同時に作曲クラスにも所属、22歳までに作曲で七つの優秀賞取得。アルド・チッコリーニに三年間師事。ロベルト・シューマン国際コンクールで優勝。ロマン派時代のピアノ使用で、現在、ショパン並びにリストの専門ピアニストとして認知されている。

パリ国立高等音楽院並びにフランス地方大学の教授であり、2010年のショパン二百年祭に際してはワルシャワでプログラム委員を務め、日本のピチナ名誉会員でもあるイヴ・アンリは、ロマン派時代を中心にしたリサイタルを世界各地で数多く行っている。

アメリカ、日本、中国の大学マスタークラスに定期的に招聘され、主要な国際コンクールの審査員を務める。(モンテカルロピアノコンクール、ドボルザークピアノコンクール、ドイツでのロベルト・シューマン国際コンクール、ワルシャワのショパンコンクール)。またヴァイオリニストの兄弟はじめ多くの仲間と組んで室内楽分野でも献身、女優のマリー・クリスチン・バローやブリジットフォシーと組んで文学と音楽のコラボも手掛けている。

演奏者として、また教授として活躍するかたわら、コルシカの詩人、アンドレ・ジョヴァンニの作品や種々の室内楽曲に啓発され、新曲を作曲、最近では2014年にパリとドイツで初演のオーケストラ向ノクターンを作曲。またポール・デューカスのソルセラーアプレンチス、モーリス・ラヴェルのワルツ、ボロディンの踊りなどの編曲を行い、CDを2015年にリリースした。

2010年1月、フランス文化省、芸術・文学庁の最高勲位に叙せられ、ポーランド政府からフランスにおけるショパン年貢献者としてグロリアアーティス賞を授与される。2010年のフランス名士録に登録され。2011年1月にはノアンショパンフェスティバルの会長職をアラン・ドルトから引き継ぐ。

CD多数、割愛する。                               ネットより

(英文抄訳) TMCJ 中西隆夫

 

ショパンからドビュッシーへ

ブルー・ノート変奏曲

 

(1)第1部の前に

本日のコンサートのプログラムは、ショパンの作品と、彼の後継者であるフランス人の作曲家、ラヴェル、ドビュッシーそしてフォーレの作品とを結びつけて紹介するものです。皆さんをちょっと驚かしてあげようと考えたプログラムです。

 

ショパンは、ピアノで色彩をどう表現したら良いかということを、一生涯にわたって追求し続けた作曲家です。ジョルジュ・サンドは、ショパンと画家のドラクロワが、絵画と音楽に色彩をもたらす方法について熱心に討論した様子を思い出して、ブルー・ノート (青い音符) についての文章を残しています。フォーレ、ドビュッシー、ラヴェルは、ショパンが切り開いた道に従って、音楽に色彩を与えることを第一に考え、ピアノを本物のオーケストラに変身させたような作品を生んでいきました。ですから、1828年から1849年のショパンの作品と、1890年から1920年に書かれたフランス人作曲家の作品の間には、音の響きの美学とピアノ書法に大きな類似性があります。

 

このコンサートでは、主に変ニ長調(♭5つ)と嬰ハ短調(♯4つ)の色彩の類似点を聴いていただきたいと思います。なぜ殆どの曲が変ニ(レ♭)と嬰ハ(ド♯)—名前は違いますが同じ音です—を中心において作られているのか?この音の周りでどのように巧みな変化が起こっているのか?…を明らかにしたいと願い、私はジョルジュ・サンドの文章にちなんでこの二つの音をブルー・ノートと名付け、「ブルー・ノート変奏曲」を組み立てました。

 

まず、ショパンの作品27の2つのノクターンと、ラヴェルのソナチネの2・3楽章を組み合わせることにしました。変ニ長調のノクターン作品27の2番を、同じく変ニ長調の、ラヴェルのソナチネ2楽章メヌエット、次に嬰ハ短調のノクターン作品27の1番につなぎます。最後にソナチネの終楽章がこの4曲を締めて終わらせるという計画です。

 

それからラヴェルの<鐘の谷>、ドビュッシーの<アラベスク第1番>、ショパンの<舟歌>を続けて弾きます。3曲とも頻繁に色彩が変わりますが、ド♯の音が支配的です。

ショパンの<舟歌>が、ドビュッシーとラヴェルのお気に入りの曲だったことをよく覚えておいてください。とても重要なことです。

 

(2)第2部の前に

第2部でも私は複数の作品の別のつながりを探求していきます。曲を選ぶときの原則は同じで、ショパンの作品と、彼のフランス人後継者のいくつかの作品との間の色彩感と調性の親近性あるいは共通点を見つけることです。

 

ショパンのマズルカ作品50の3番、嬰ハ短調から始め、変ニ長調のドビュッシー<月の光>を弾きつなぎます。次に同じ調性のガブリエル・フォーレ<ノクターン>を結びつけます。二つの調性によるこのヴァリエーションは、さきほどのショパン作品27の二つのノクターンを思い出させます。異なる時代の作曲家の間に共通のインスピレーションが通いあったことを物語っているようですね。

 

続くドビュッシーの2つの曲、<水の反映>と<トッカータ> もまた同じ調性で書かれていますが、インスピレーションの源は異なっています。最初の曲の色彩は、クラブサン奏者から影響を受けています。次の曲はよりヴィルテュオーゾ、名人芸的です。

 

次に弾く私の作品 <La Note bleue à Nohant> (ノアンの蒼い旋律) は、ショパンと彼のプレリュード作品45へのオマージュで、色彩を完璧に追求し、ショパンに捧げたいと願った作品です。同時に全く模倣はせずに、ドビュッシーを連想させるような音楽言語を使って作曲しました。ショパンのノクターンに似て即興的な性格を持った曲です。

 

このプログラムの最終曲<喜びの島>は、<牧神の午後への前奏曲>または他の多くの曲の冒頭で使っているド♯のトリルで始まります。私はドビュッシーのこの作品を、ショパンの<舟歌>に匹敵する曲だと考えています。一部と二部の終曲にこの二つの作品を選んだ理由です。オーケストラ的なスケールの大きさ、多彩な音色と、 後期の作品以外ではショパンも滅多に使われない、教会旋法で生じるきらびやかな光、水を連想させる揺れ。最後まで全く弱まることなく勢いよく動き回る音楽です。お聞きください。

 

 

テキスト:イヴ・アンリ

翻訳:大倉景子

文責:ユーロピアノ株式会社/ベヒシュタインジャパン2018/9

夜空に蒼く輝く月、その光に照らされた白い雲片。その下に広がる喜びの島、月の光が島の稜線を照らしている。海はどこまでも暗く黒く底に向かって天に向かって神秘の光を放っている。海上に生起する寄せては返す虹の波。岸の高台で水を吐く噴水。独り高く上がっては崩れ落ち水盤を満たす。水の反映である。これはドビュッシー没後百年を記念して私が描いた絵の詩的散文である。
今日のイヴアンリのピアノを聴きながら絵に共通しそうな楽想に思いを馳せていた。ショパンがピアノの詩人と呼ばれ、画家のドラクロワと色彩感について多いに論じ合ったように、ショパンの後継者のドビュッシーもまたいかに音で色彩を出すかで苦しんだようだ。イヴアンリの演奏を聴いていると 、曲の楽想がそもそも脳裏になければ、それを表わす色彩感も何もあったものではない。音楽を志ざす人は音楽以外にもっと詩や文学や絵画にも関心を示すべきではないかなと思った。天に向かい、水底に向かって放つ神秘の色は最弱の、音の無い長い音ではないだろうか。