2009年6月27日 (土)
Lachezar Kostov チェロリサイタル(ピアノ/清水 愛)

ラチェザール・コストフ& ピアノ/清水 愛

2009年6月27日(土) 午後2時~      Salon Collina

梅雨もどこへやら、今日は思いがけず良く晴れて外では快い風が吹いている。まさに珍客をお迎えするに相応しい日となった。今日は、葉山在住のヴァイオリニスト綱島照子さんのご紹介とお世話で、ブルガリア人で今、アメリカに在住のラチェザール氏のチェロ演奏を、清水 愛さんのピアノ伴奏でお聴きすることができた。ここ数年、お二人は呼吸の合った名コンビとして多くの方に知られている。

素顔のラチェザールと愛さん

ラチェザール氏はあの有名なヨーヨー・マとも共演されたことのある屈指のチェリスト。かたや清水 愛さんは、チェリストとして世に聞こえた故清水勝雄氏のご長女で、国内外で今広く活躍されているピアニスト。今回お世話し、ご紹介くださった綱島さんはそのお父上にかつて師事されたことがあるそうだ。なんとこのお父上は生前、現天皇のチェロのご指導を二十五年に亘りなされていたそうである。父上が遺された名器の中の一つ、イタリアクレモナ製のチェロをラチェザール氏が今回はじめて三日前に手にし、自分の持ち物とはわけが違うと強く感動、早くこの名器で弾きたいと焦るような気持ちで、この赤茶色のチェロを携えこの湘南国際村を訪れてくださったのだった。

本日のプログラム
バッハ: アダージオ            グリーグ: チェロソナタ全楽章
シチェドリン: 間奏曲           イベール: 小さな白いロバ
パガニーニ: モーゼ幻想曲       ショパン: 序奏と華麗なポロネーズ
アンコール曲  シューベルト: アヴェ・マリア

終演後、愛さんのお母さんが挨拶の冒頭で述べられたことが筆者の頭について離れない。「音楽は心に染み付き、心に響くところがあればいい。解説など一切要らない」と。まさにわが意を得たりだった。それを今日ほど実感したことも少ない。いつものことながら、この小さな、しかし音響のよいホールで生演奏を演奏者のそばで聴くのはこの上ない贅沢だが、なかでも今日は若いラチェザール氏の弾く力強い、チェロの明澄でいて重厚な音色と、円熟した清水 愛さんの弾く、まろやかで深みのあるニューヨークスタインウエイピアノの黒曜石のような音色の織り成す、得もいわれぬハーモニーのルツボの中で至福のときを過した。とくに様々な顔を持つグリーグのチェロソナタ全楽章には心底痺れた。後でDVDを編集してもう一度聴いたが生の演奏とは迫力が違った。
 

筆者が今日感じたことはクラシック音楽は演奏者と天上との対話ではないか、それは言葉によらない、言葉以前の音魂ともいうべき精神による天上との対話ではないか。筆者が思う「天上」は「天=自然」でもなければ「神」でもない。人間の奥深くで静まり返っている美しい魂である。それは人の情感や感情に訴える歌謡とはまた別物のようである。光る縁なしめがねを掛け、青々とした髭剃り痕が遺る、きりっと口元を結んだ、上向き加減に瞑想するように弾く音楽家然としたラチェザール氏の姿を見ているうちに自然とそのような考えが湧いてきた。彼こそ天上と向き合える現代の最高の若者であり詩人だった。終演後の小パーティーに集まってくださった人たちの数は今までの最高かもしれない。皆さんに喜んでもらえるその嬉さはまた格別のものがある。

 ( 土 ) Lachezar Kostov チェロリサイタル(ピアノ/清水 愛)